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素読のすすめ

平成30年7月15日
素読のすすめ 四字熟語から名詩名文を訪ねる
第24回 『天衣無縫』てんいむほう

詩や文章が自然で美しくできていること。
人柄が飾り気なく、純真のことのたとえ。
昔、郭翰(かくかん)という人がいて、夏の夜、庭で寝ていると天から天女がひらひらと舞い降りて来て「私は織女です」と名のりました。郭翰がその美しい着物をよく見るとどこにも縫い目がないのです。わけを尋ねると「天女の着物はもともと針や糸で作ったものではありません」。と答えたといいます。「天衣」は天女の着物、「無縫」は縫い目が無いこと。
天女の着物に縫い目がないように、出来た文章に技巧の跡がなく、完全で美しいことをいう。転じて飾り気がなく、素朴で純真な人柄のことをいいます。

楽しい素読

孔子(こうし)(しゅっ)す、原憲(げんけん)(つい)()げて草沢(そうたく)(うち)にあり。子貢(しこう)(えい)(しょう)たり。(しか)して()(むす)()(つら)藜藿(れいかく)(おしひら)窮閭(きゅうりょ)()り、(よぎ)りて原憲(げんけん)(しゃ)す。(けん)弊衣(へいい)(かん)(ととの)へて子貢(しこう)()る。子貢(しこう)(これ)()じて、()はく、夫子(ふうし)()()まんか、と。原憲(げんけん)()はく、()(これ)()く、(ざい)()(もの)(これ)(ひん)()ひ、(みち)(まな)んで(おこな)(あた)はざる(もの)(これ)(へい)()ふ。(けん)(ごと)きは、(ひん)なり。(へい)(あらざ)るなり、と。子貢(しこう)()じ、(よろこ)ばずして()る。終身(しゅうしん)()(げん)(あやま)ちを()ずるなり。
  孔子全書「史記」仲尼弟子列伝第七

○原憲、(あざな)は子思、孔子の弟子。清静にして節を守り、貧にして道を楽しむ。
○子貢、端木賜(たんぼくし)、子貢は(あざな)、孔子の弟子。言語、弁説に巧みで、財をふやすことに長けていた。
○駟を結び騎を連ね…四頭の馬を車に結び、従者を引き連れて
○藜藿、ここでは貧しい集落の意。
○窮閭、むさくるしい里。貧しいちまた。

大意
孔子の死後、原憲は隠遁(いんとん)として草深い沼沢(しょうたく)に住んで道を楽しんでいた。子貢は、衛の国の大臣に栄達して、四頭立ての馬車に乗り、従騎を引き連れて、草深いむさくるしい里を通過した折、そこに隠棲(いんせい)する原憲に挨拶しようと立ち寄った。原憲は、やぶれた衣冠をととのえて子貢と会見した。子貢は、原憲のみすぼらしいなりを見て恥ずかしく思い、あなたともあろう方がどうしたのだ。病んででもおられるのか、と言った。これに対して原憲は、わたしは、財の無いのを(ひん)()い、道を学んでも実行できない者を病と謂うと聞き知っている。自分は貧ではあるが、病ではない(つまり貧しくはあるが、学んだ道を実践して楽しんでいる)といった。これを聞いて子貢は、己を()じて心よからず別れて行き、生涯、自分の失言を()じた。